あい変わらずわけの解らない事言ってます
上記の一文をご存じでしょうか。
ロックバンドのくるりの『東京』の歌詞の出だしである。
「東京」をテーマとした曲は数多くあれど、『東京百景』の全体にまとわりつくのは、くるりの『東京』以外には考えられない。
又吉さんはくるりのファンで、本文中にもくるりの『東京』が出てきて、日比谷野外音楽堂でライブにも行っている。(かくいう私もくるりのファンであり、度々ライブに行っていたのだけど。)
よって、本書を一読する前には、くるりの『東京』を視聴することを推奨する。
お笑いコンビのピースの又吉直樹著の『東京百景』を読んだので、感想を書いてみようかと思う。
文庫本の表紙のカバーモデルは女優の「のん」であり、
カバー題字は又吉直樹本人が書いている。
透明感代表の女優「のん」がこの本の表紙モデルであるのは、違和感があったのだが、最後まで読んでこの本の表紙は「のん」で正解なのかもしれない、と思った。彼の心からの素直な文章は「のん」の透明感と酷似する。
yo!俺は東京生まれヒップホップ育ち…ではなく、私は愛知生まれ田舎育ちであるので、率直に言って、東京には何の思い入れもない。
というわけで、本書には東京の数々の地名が登場するのだけど、何一つピンとこないのである。しかし東京の具体的な地名の記述は、彼が本当にここで生活をしていたことの証である。
いつか聖地巡礼をしてみたい。
「はじめに」の一文にはこう記してある。
素人が恰好つけても仕方がないので取りつくろわずに正直に書くと決めた。最初の六年間は一銭ももらえなかった。(P4)
本の帯はこれ。
「ドブの底を這うような日々を送っていた」
夢を追いかけながら、苦悩する若者の文章。全体的に哀愁があり暗い雰囲気が漂う。
一章から三章までは、上京してから下積み時代の東京での暮らし。(学生時代のエピソードも一部あり。)
私が好きなのはP87の明治神宮、ピース結成の記念すべき日のできごと。
色々と話した結果、「試しにやってみようか」とコンビを組むことになった。理想を言えば、そこで落鳴が轟き落ちた雷が本殿を跳ね返って竜の天に昇り、天命を我々に授かったと思わせてくれたり、見たことも無いような得体の知れぬ美しい鳥が「伝説の始まり」を告げるように一声鳴いたりして、気分を高揚させたい場面だったが、実際には、ちょうど周りの老人たちがラジオ体操を始めたので、酷くまったりとしていた。とにかく新しい朝が来た。希望の朝が。(P88)
人生の転機となる出来事は、ドラマチックに見えがちだけど、実際には平凡な日常の一コマであると私は思う。しかし、ここでラジオ体操、新しい朝が来た、又吉さんに笑いの神様が降りてきたことを表すエピソードでもある気がしている。
又吉さんの文章は静かに語り掛けながらも、ユーモアを忘れない。さすが。そして「エッセイ」というより「小説」のほうが近いように感じる文体。
4章は文庫化にあたり、新たに書下ろしされたもので、それまでとガラリと変わる文章。
それまでの章に相方の綾部さんがほとんど登場しないのだが、その理由も4章で明かされる。その理由がまたいいんだ。
3章までは「死神」と揶揄され、頻繁に職務質問をされ、バイトの面接で幾度となく落とされ、暗黒を生きる男だったが、もうその姿はどこにもない。力強く、たくましい。
又吉直樹『東京百景』は魂の文章で終始痺れまくった。
本書を完読した暁には、次はくるりの『ロックンロール』を聴いてほしい。
歌詞の意味を噛みしめながら。
足早にならず確かめながら (くるりの『ロックンロール』の冒頭の歌詞)
追記:今回の記事が若干、硬めの文章なのは、この本を読んだ直後に書いたので、又吉さんの文章の影響を受けています。(伝わるわけないw)
あと、私が「くるりのロックンロールを聴くように!」と指定しているのが謎に思われるかもしれないけど、第4章はくるりのロックンロールを彷彿とさせるんだよね。又吉さん、くるりのロックンロール聴きながら、書いたんじゃないかと思うんだけど……そこんとこ、どーなの、又吉さんっ!!!!
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